分析の基本は、「比較できる形」をつくること-フィジカル測定現場で使える4つの視点

公開日:

2026.9.17

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測定が終わった。
Excelにも数字が並んだ。

🔗①「そのデータ、現場の判断につながっていますか?」
🔗②「『とりあえず測る』をやめる。現場で使える5つのチェックリスト」

10 mスプリントの結果を見ると、ある選手は1.82秒。
そこでコーチから聞かれます。
「で、この1.82秒ってどうなの? 良いの? 悪いの?」
スポーツ現場では、こんな場面もあるのではないでしょうか。

1.82秒という数字を得るところまでは「測定」です。
しかし、この数字だけでは、

・チームの中でどの位置なのか
・前回からどのくらい変わったのか
・最近の本人と比べてどうなのか
・他の能力とどのような関係があるのか
までは分かりません。

そこで必要になるのが、分析です。
今回の記事で伝えたいことは一つです。

分析で最初に考えるのは、「どの統計を使うか」ではなく、「何と比べたいか」。


分析というと、少し難しく感じる


「データ分析」と聞くと、
相関係数、p値、統計ソフト、回帰分析……。

そんな言葉を思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それらも分析の一部です。
でも、現場での分析はもっと身近なところから始まります。
例えば、
チームの平均を出す。
前回との差を出す。
8週間の推移をグラフにする。
2つの指標を散布図にする。

こうした作業も、測定で得られた数字を比較・検討できる形に整える分析です。スポーツ現場でデータを扱う際にも、集団の特徴、差や変化、関連性などを目的に応じて整理することが基本になります(Turner et al., 2015)。

分析とは、数値を「比較・検討できる形」に整えること。

こう考えると、「分析」という言葉のハードルも少し下がるかもしれません。


まず決めるのは、「何と比べるか」


先ほどの、10 mタイム:1.82秒に戻ります。

この数字を分析する方法は一つではありません。
なぜなら、知りたいことによって比較する対象が変わるからです。

チームメイトと比べたい
→ 平均値、標準偏差、順位、パーセンタイル

自分の過去と比べたい
→ 差、変化率、時系列グラフ

体格などの条件をそろえて比べたい
→ 正規化

別の能力との関係を見たい
→ 散布図、相関係数

同じデータでも、問いが変われば必要な分析も変わります。
分析方法を先に選ぶのではなく、知りたいことから比較方法を選ぶ。

ここが分析の出発点です。


① 「周りと比べる」ために、基準をつくる

例えば、15人の選手が10 mスプリントを行ったとします。

結果が、

1.74秒
 1.79秒
 1.82秒
 1.86秒
 1.91秒……

と並んでいる。

一覧を見るだけでも何となく分かりますが、15個の数字を毎回眺めるのは大変です。

そこで、

  • 平均値

  • 中央値

  • 標準偏差

  • パーセンタイル

  • Zスコア

などを算出します。

例えば、

本人:1.82秒
 チーム平均:1.88秒
 パーセンタイル:80

と整理すれば、単独だった「1.82秒」を、集団と比較できる状態にできます。

ここまでが分析です。

一方で、「この選手は加速能力が高い」
「加速能力はこの選手の長所だ」
と意味づければ、そこから先は評価になります。

分析は「どこにいるか」を示す。
 その位置をどう捉えるかは、評価で考える。


比較する前に、そのまま比べてよいか考える

比較するときには、測定値をそのまま並べるだけでは目的に合わない場合もあります。

例えば、
・体重100 kgでスクワット150 kg
・体重60 kgでスクワット150 kg
という2人がいたとします。

挙上した重量は、どちらも150 kgです。
しかし、「体格に対してどの程度の筋力を持っているのか」を比較したいのであれば、1RM ÷ 体重のように正規化した方が、目的に合う場合があります。

一方で、何でも体重で割ればよいわけではありません。
スプリントモメンタム(体重×走速度)のように、体重を含めた絶対的な大きさそのものを見たい指標もあります。

何を比較したいのかによって、データの整え方も変わる。


② 「以前の自分と比べる」と、変化が見えてくる

次に、その選手の前回の10 mタイムが、1.85秒だったとします。

今回が1.80秒なら、差:−0.05秒
さらに、変化率:約−2.7%と整理できます。

これも分析です。
変化率にすると、元の値に対してどの程度変化したのかを相対的に表すことができます。

例えば、

  • ジャンプ高:40 → 45 cm

  • スクワット1RM:136 → 141 kg

は、どちらも「+5」です。
しかし変化率では、

  • ジャンプ高:+12.5%

  • スクワット1RM:約+3.7% となります。

同じ「+5」でも、比較の仕方によってデータの見え方は変わります。


「変わった」と「意味のある変化」は同じではない

ここで、一つ重要なことがあります。

「10 mタイムが2.7%短縮した」ことと、「加速能力が意味のあるレベルで改善した」ことは同じではありません。

測定値は、能力がまったく変わっていなくても毎回完全に同じ値になるとは限りません。

機器の誤差、測定手順、当日の状態、選手自身の通常のばらつきなどによって、値は多少変動します。
そのため、まず考えたいのは、

「今回の−0.05秒は、普段のばらつきを超えた変化なのか?」
という問いです。

ここでは、統計知識である信頼性やTypical Error、CV、MDCなどが判断材料になることがあります(この詳しい内容については別の機会でご紹介します)。

しかし、仮に測定誤差を超えていたとしても、それだけで「重要な改善」とは言えません。

次に考えたいのが、「その変化は、現場で意味のある大きさなのか?」という問いです。

ごく小さな変化でも、競技レベルや選手の課題によっては重要な場合があります。反対に、誤差を超えていたとしても、現在の目標から考えると実践上ほとんど意味を持たない場合もあります。

ここでは、
・競技要求
・目標値
・過去の本人のデータ
・参照値
・あらかじめ設定した基準
などが判断材料になります。

つまり、変化を見るときには、

① 本当に変わったのか
 ② その変化は重要なのか

という2つの問いを分けて考える必要があります。


③ 2点ではなく、「流れ」で比べる

スポーツ現場では、PreとPostだけでなく、毎週のようにデータを取ることもあります。

例えばCMJ高が8週間、

45.1
 → 44.6
 → 45.3
 → 43.6
 → 44.1
 → 45.8
 → 46.4
 → 45.0 cm

だったとします。

数字だけでは少し追いにくい。
そこで折れ線グラフにすると、

いつ上がり、いつ下がったのか。
過去数週間と比べて、今回がどの位置にあるのか。
を確認しやすくなります。

縦断的に選手を追う場合、単一時点だけでなく、過去の値や時間的な推移を確認できる形に整理することはとても重要です(Bailey, 2019; Thornton et al., 2019)。

数字の列を、「時間の流れ」が見える形に変える。
これも分析です。

ここで注意したいのは、グラフが下がったからといって、
「疲労している」とすぐに決めないことです。
分析で示しているのは、まず測定値がどう動いたか。

「なぜ下がったのか?」を考えるのは、その次です。


④ 「別のデータと比べる」と、関係が見える

もう一つよく使うのが、2つの指標を比べる分析です。

例えば、バックスクワット1RMが高い選手ほど、シュート速度も高いのか?
これを確かめるなら、2つの数値を並べるだけでなく、散布図を作ります。

さらに相関係数を計算すると、r = 0.52のように、関係の程度を数値で表すこともできます。

ただし、相関係数だけを見ると、大事な情報を見落とすことがあります。外れ値やデータの分布によって、相関係数が大きく変わる場合があるため、散布図そのものを確認することも重要です(Schober et al., 2018)。

そして、
「なぜ関連しているのか?」
「筋力を高めればシュート速度も上がるのか?」
「体格や競技歴が関係しているのではないか?」
と考えるのは、分析結果を解釈する段階です。

相関があることと、原因であることは同じではありません。

分析は「関係を見えるようにする」。
 なぜその関係があるのかを考えるのは、その次。


分析と評価を混ぜない

ここまでの内容を、一度つなげてみます。
10 mスプリントを測定したとします。

測定
1.82秒
↓
分析
チーム平均:1.88秒
パーセンタイル:80
前回比:−0.05秒
8週間の推移をグラフ化
↓
評価

この選手にとって加速能力は長所なのか?
 −0.05秒は誤差を超えた変化なのか?
 その変化は競技上重要なのか?
 なぜ変化した可能性があるのか?

という流れです。
論文に例えるなら、分析はResults(結果)をつくる作業、評価はその結果をDiscussion(考察)する作業に近いかもしれません。

この2つを分けることで、
「数字が下がったから疲労」
「平均より低いから弱点」
といった、少し早すぎる結論を避けやすくなります。


高度な分析より先に、3つ押さえる

分析を始めるとき、最初から高度な分析や統計を行う必要はありません。
まずは次の3つを考えてみてください。

① 何を明らかにしたい?

集団の特徴?
 変化?
 時間的な推移?
 他の指標との関係?

② 何と比べたい?

他の選手?
 自分の過去?
 目標値?
 別の指標?

③ どうすれば比較しやすくなる?

平均を出す?
 変化率にする?
 グラフにする?
 正規化する?

この3つが決まってから、必要な分析方法を選びます。

分析は、たくさん計算することではない。
 知りたいことに対して、必要な「結果」をつくること。

測定によって、数字を得る。
分析によって、その数字を比較・検討できる形にする。

そして、測定誤差、科学的エビデンス、選手の背景、コーチの観察、本人の声なども踏まえながら、その結果を意味づけていく。

それが次の評価です。
データを開いたとき、いきなり分析ソフトを立ち上げる前に、一度こう問いかけてみてください。

「この数字を、私は何と比べたいんだろう?」
分析は、そこから始まります。

次回は、分析によって得られた結果を、どのように意味づけて現場の判断につなげるのか――「評価」の基本について考えます。


監修:
 Ph.D., CPSS, CSCS, JSPO-AT
 西海大地

🔗①「そのデータ、現場の判断につながっていますか?」
🔗②「『とりあえず測る』をやめる。現場で使える5つのチェックリスト」

参考文献

Bailey, C. (2019). Longitudinal monitoring of athletes: Statistical issues and best practices. Journal of Science in Sport and Exercise, 1(3), 217–227.
 https://doi.org/10.1007/s42978-019-00042-4

Schober, P., Boer, C., & Schwarte, L. A. (2018). Correlation coefficients: Appropriate use and interpretation. Anesthesia & Analgesia, 126(5), 1763–1768.
 https://doi.org/10.1213/ANE.0000000000002864

Thornton, H. R., Delaney, J. A., Duthie, G. M., & Dascombe, B. J. (2019). Developing athlete monitoring systems in team sports: Data analysis and visualization. International Journal of Sports Physiology and Performance, 14(6), 698–705.
 https://doi.org/10.1123/ijspp.2018-0169

Turner, A., Brazier, J., Bishop, C., Chavda, S., Cree, J., & Read, P. (2015). Data analysis for strength and conditioning coaches: Using Excel to analyze reliability, differences, and relationships. Strength & Conditioning Journal, 37(1), 76–83.
 https://doi.org/10.1519/SSC.0000000000000113