

公開日:
2026.8.27
ある選手のカウンタームーブメントジャンプ(CMJ)を測定したところ、ジャンプ高が前回より2 cm低下していました。
この結果を見て、あなたならどうしますか。
「少し疲れているのかもしれない」
「今日のトレーニング量を減らした方がいいだろうか」
「もう一度測ってみようか」
いくつかの選択肢が浮かぶと思います。
では、その2 cmという数値は、選手への対応を変えるのに十分な情報なのでしょうか。
現在のスポーツ現場では、さまざまな情報を取得できるようになっています。
フォースプレートによるジャンプ測定、GNSSによる走行距離や高速度走行、心拍数、RPE、コンディション質問票、体組成など、その選択肢は少なくありません。
さらに、論文検索環境やAIの発展によって、研究から得られた知見にも以前よりアクセスしやすくなっています。
こうしたデータやエビデンスは、選手の状態を理解し、トレーニングやコンディショニングを考えるための材料になる可能性があります。
一方で、
「測定しているけれど、結局グラフを眺めるだけになっている」
「数値が変わったときに、何をすればよいのか分からない」
ということも、現場では起こり得ます。
データを取得することと、それを現場の判断に活用することは、必ずしも同じではありません。
では、得られたデータをどのように扱えばよいのでしょうか。
ここが、この記事で最も伝えたい部分です。
本稿では、スポーツ現場でデータを活用する流れを、実務上の整理として
測定 → 分析 → 評価 → 意思決定の4段階に分けて考えてみます。
Weakley et al.(2024)は、アスリートのテストを活用する際には、何を測るかだけではなく、テストの選択、標準化、信頼性、結果の解釈なども含めて考える重要性を示しています。
冒頭のCMJを、この流れに当てはめてみましょう。

一定のルールに沿ってCMJを実施した結果、ジャンプ高 38.2 cmという値が得られました。
これが「測定」です。
測定条件が毎回大きく異なれば、その後の比較も難しくなります。そのため、ウォームアップ、動作方法、試技数などを可能な範囲で標準化しておくことが重要になります。
しかし、38.2 cmという数字を得ただけでは、それが良いのか悪いのかはまだ分かりません。
次に、過去の結果と比較してみます。
前回は40.2 cmだったため、今回は2.0 cm低下していることが分かりました。
さらに過去の測定値や普段の変動幅と比較することで、
「普段より低いのか」
「いつもの変動の範囲なのか」
といったことも確認できます。
例えば、普段から1〜2 cm程度変動する選手と、ほとんど変動しない選手では、同じ2 cmの低下でも捉え方が異なる可能性があります。
このように、得られた数値を比較し、どのような変化が起きているのかを明らかにしていくのが「分析」です。
ただし、「2 cm低下した」=「今日はトレーニングを軽くする」ではありません。
ここから、その変化が何を意味するのかを考える必要があります。
分析によって「普段より大きく低下している可能性がある」と分かったとします。
次に考えたいのは、なぜその変化が起きたのか、そして目の前の選手にとって何を意味するのかです。
例えば、
・最近のトレーニング負荷は高すぎなかったか
・反対に、パフォーマンスを維持・向上させるためのトレーニング刺激が不足していなかったか
・本人は疲労感や筋肉痛を感じているか
・睡眠や体調などに変化はないか
・他のパフォーマンス指標にも変化がみられているか
・今回だけの低下なのか、数週間にわたって低下傾向が続いているのか
といった情報を確認します。
アスリートモニタリングでは、外的負荷や内的負荷、主観的指標など、異なる情報を目的に応じて扱うことが提案されています(Bourdon et al., 2017)。また、主観的なウェルビーイング指標がトレーニング負荷の変化に反応する可能性も報告されています(Saw et al., 2016)。
ここで重要なのは、パフォーマンスの低下をすぐに「疲労」と結びつけないことです。
最近のトレーニング負荷が高く、本人の疲労感も強ければ、蓄積した負荷や回復状況が関係している可能性があります。
一方で、中長期的にパフォーマンスが低下しており、その期間に必要なトレーニング刺激が十分に与えられていなかったのであれば、負荷不足という別の可能性も考える必要があります。
もちろん、単回の2 cmの低下だけから原因を特定することはできません。
だからこそ、CMJの数値だけではなく、トレーニング履歴、選手との会話、コーチの観察、他の指標、時間的な変化などを踏まえて、
「今回の2 cm低下を、この選手ではどう捉えるか」を考えます。
これが「評価」です。
最後に、評価した情報をもとに次の行動を考えます。
例えば、
・一時的な変動の可能性が高く、他に懸念がなければ、予定どおりトレーニングを行う
・まだ判断材料が不足していれば、再測定や本人への聞き取りなど、追加の情報を得る
・負荷の蓄積や回復不足が疑われれば、トレーニング量・強度や回復方法の調整を検討する
・中長期的に必要な刺激が不足している可能性があれば、トレーニング量・強度
・内容そのものを見直す
といった対応が考えられます。
つまり、データを活用することは、必ずしも「トレーニングを減らすこと」ではありません。
状況によって、
減らすのか。
維持するのか。
増やすのか。
あるいは、もう少し情報を集めるのか。
その判断を支えることが、データを活用する一つの目的です。
大切なのは、「CMJが2 cm低下したらトレーニングを減らす」というように、一つの数値と一つの行動を単純に結びつけることではありません。
どのような変化が起きたのかを分析し、その背景や意味を評価したうえで、次の行動を選ぶ。

データは現場の判断を自動的に決めてくれるものではありません。
しかし、選手との会話、コーチの観察、トレーニング履歴、研究知見などと組み合わせることで、より妥当な次の行動を考えるための判断材料を増やすことはできるかもしれません。
私たちが本当に必要としているのは、データそのものではなく、より良い意思決定につながる情報なのではないでしょうか。
明日の現場で、一つだけ試してみてください
いま自分が測定している指標を、一つ思い浮かべてみてください。
CMJでも、RPEでも、GNSSでも構いません。
そして、その横に、「この数値がどう変化したら、私は何を確認し、次に何をするのか?」と書いてみてください。
もしすぐに答えが浮かばなければ、その指標は、
「測定はしているけれど、その先の使い方をまだ十分に設計できていないデータ」なのかもしれません。
何を知るために測定するのか。
どのように分析するのか。
その結果をどう評価するのか。
そして、どのような意思決定につなげるのか。
そこまで考えておくことで、データやエビデンスをパフォーマンス向上のために活用しやすくなる可能性があります。
次回は、今回の中心となった「測定・分析・評価は、それぞれ何が違うのか?」を、もう少し具体的に掘り下げていきます。
Bourdon, P. C., Cardinale, M., Murray, A., Gastin, P., Kellmann, M., Varley, M. C., Gabbett, T. J., Coutts, A. J., Burgess, D. J., Gregson, W., & Cable, N. T. (2017). Monitoring athlete training loads: Consensus statement. International Journal of Sports Physiology and Performance, 12(Suppl 2), S2-161–S2-170.
Saw, A. E., Main, L. C., & Gastin, P. B. (2016). Monitoring the athlete training response: Subjective self-reported measures trump commonly used objective measures: A systematic review. British Journal of Sports Medicine, 50(5), 281–291.
Weakley, J., Black, G., McLaren, S., Scantlebury, S., Suchomel, T. J., McMahon, E., Watts, D., & Read, D. B. (2024). Testing and profiling athletes: Recommendations for test selection, implementation, and maximizing information. Strength & Conditioning Journal, 46(2), 159–179.