『とりあえず測る』をやめる。現場で使える5つのチェックリスト ― 測定は、実施前から始まっている 

公開日:

2026.9.3

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前回の記事では、スポーツ現場でデータを活用する流れを、測定 → 分析 → 評価 → 意思決定の4段階に整理しました。
🔗前回記事「そのデータ、現場の判断につながっていますか?」


今回は、その最初にある「測定」について考えてみます。

例えば、コーチからこんな相談を受けたとします。
「最近、選手の動きにキレがない気がする。測定で確認できない?」
では、何を測ればよいでしょうか。

方向転換走でしょうか。筋力でしょうか。
それとも別の指標でしょうか。

ここでいきなり測定方法を選び始めると、少し順番が早いかもしれません。

なぜなら、「キレ」という言葉だけでは、本当に知りたいものがまだ十分に定まっていないからです。


測定は「何を知りたいのか?」から始まる

測定というと、「どの機器を使うか」「どのテストをするか」を最初に考えがちです。
しかし、測定の出発点はもっと前にあります。

まず確認したいのは、「何を知りたいのか?」そして、「その結果を見て、何を判断したいのか?」です。

先ほどの「動きのキレ」で考えてみましょう。

コーチにもう少し詳しく聞くと、「相手に先にボールに触られている。最初の2〜3歩でもっと素早く動けるようにしたい」という話だったとします。

ここまで具体的になると、知りたいことが少し見えてきます。

もちろん、予測や反応の要素はありますが、フィジカル面を切り取った場合、今回知りたいのは、漠然とした「キレ」ではなく、例えば、短い距離での加速能力かもしれません。

そこで初めて、10 mスプリントのような測定種目が候補になります。
さらに、10 mタイムという測定指標を選ぶことができます。

つまり、
「キレを知りたい」
→「短距離の加速能力を知りたい」
→「10 mスプリントを行う」
→「10 mタイムを見る」

という順番です。

測定を考えるときには、測定項目 → 測定種目 → 測定指標を分けて考えると整理しやすくなります。

例えば、
・測定項目:加速能力
・測定種目:10 mスプリント
・測定指標:10 mタイム という関係です。

ここを飛ばして「測れるから測る」と、データは増えても、それが何を意味しているのか分からなくなる可能性があります。


競技だけでなく、「目の前の選手」を見る


どんな測定項目を測るかと考えるときには、競技特性は重要です。

例えば野球であれば、球速、スイングスピード、下半身の筋力・パワー、スプリント能力、可動性など、さまざまな要素がパフォーマンスや身体的要求に関係します。

しかし、「野球選手だから、この項目を測る」だけでは十分ではありません。

同じ競技でも、選手によって必要な測定項目は異なる可能性があります。

例えば、
・年齢
・性別
・競技レベル
・既往歴
・トレーニング経験
・現在抱えている課題 などです。

11歳のトレーニング初心者と、成人のトップアスリートに、まったく同じ測定項目を用いる必要があるとは限りません。
ACL再建後の選手であれば、健患差や受傷前との比較が重要になる場合もあります

つまり、測定項目は、競技が求めるもの × 目の前の選手が必要としているものから考えていく必要があります。

こうした考え方は、トレーニングプログラムを考える際のニーズ分析とも共通しています。


「とりあえず測ればよい」わけではない


候補となる測定項目がいくつか見つかったら、次は、測定種目と指標です。
測定種目や指標を選ぶときには、少なくとも3つの視点から考えると整理しやすくなります。


① 科学的に妥当か


その測定が、本当に知りたい能力を捉えているのか
そして、同じ状態で繰り返したときに、ある程度一貫した結果が得られるのか。

つまり、妥当性や信頼性です。
例えば、「短距離加速能力を知りたい」のに、まったく異なる能力を反映するテストを選んでも、目的にはつながりにくいでしょう。

Weakley et al.(2024)は、アスリートのテストを選択する際には、妥当性や信頼性を含む科学的根拠を考慮する重要性を示しています。



② その結果から、何を判断するのか

測定指標が得られても、「で、この数字を見て何をするの?」に答えられなければ、現場での価値は限られます。

測定には、例えば、
・選手の長所・短所を把握する
・トレーニングによる変化を見る
・コンディションを継続的に確認する
・競技復帰の判断材料にする といった目的があります。

Bourdon et al.(2017)も、アスリートモニタリングでは、データを取得するだけではなく、その情報をトレーニングや選手管理の意思決定につなげることの重要性を論じています。

測定指標は、「何を見るか」だけではなく、「その結果を何に使うか」まで考えておく

ここが重要です。


③ 現場で続けられるか

科学的に優れたテストでも、現場で実施できなければ継続することは難しくなります。

例えば、
・測定に30分必要だが、確保できる時間は5分
・高価な機器が必要
・測定できるスタッフが一人しかいない
・選手への負担が大きい
・選手やコーチが測定の意味を感じていない といった問題です。

特にモニタリングのように何度も測定する場合は、継続可能性が重要になります。
高度な測定を一度だけ行うより、少しシンプルでも、目的に合った測定を継続できる方が有用な場面もあります。


測定方法が変われば、「選手の変化」なのか分からなくなる

測定するものが決まったら、もう一つ考える必要があります。

「どうやって測るのか」です。
例えば10 mスプリントを毎月測るとします。

前回は十分なウォームアップ後に測った。
今回はウォームアップ前だった。
前回はスタートラインから50 cm離れていた。
今回はタイミングゲートのすぐそばからスタートした。

前回は3試技の最高値。
今回は1試技だけ。

この条件でタイムが変わったとき、選手が変わったのでしょうか。
それとも、測定方法が変わったのでしょうか。
分からなくなってしまいます。

そのため、
・前日・当日の条件
・測定時間帯や環境
・使用機器
・ウォームアップ
・測定順序
・試技数
・休息時間
・選手への指示
・成功・失敗の基準
・最高値を使うのか平均値を使うのか
などを、可能な範囲であらかじめ決めておきます。

これは研究室のように厳密に統制するためではありません。
前回と今回を、できるだけ同じ条件で比べられるようにするためです。

 


方法を決めただけでは、まだ測定の準備は終わらない

測定方法をマニュアル化しても、測定者が実際にその方法を再現できなければ、測定値にばらつきが生じる可能性があります。

例えば、関節角度の測定、触診、試技の成功・失敗の判定、機器の操作、対象者への説明やキューイングなどには、検者の技術や習熟度が影響することがあります。

そのため、本測定の前には、測定者自身が手順を練習し、同じ条件・同じ基準で繰り返し実施できるかを確認しておくことも重要です。
「方法を決めること」と「その方法を再現できること」は別です。

測定練習は、この2つをつなぐためのステップと考えることができます。


測定を始める前に、5つだけ確認する

ここまでを、現場ですぐ使える形にまとめてみます。
新しく測定を始めるときは、次の5つのチェックリストを用いてみてください。

① 何を知りたい?
「選手のキレ」ではなく、もう一段具体的にします。
例:短い距離での加速能力を知りたい。

② その結果から何を判断したい?
「何が分かるか」だけでなく、「分かったあと何を変えるか」までが重要です。
例:スプリントトレーニングの効果を確認し、トレーニング処方に活かしたい。

③ その測定は適切で、現場で続けられる?
科学的根拠、時間、機器、選手への負担などを確認します。

④ 毎回そろえるルールは?
ウォームアップ、スタート方法、試技数、休息時間などを決めます。

⑤ 測定者の熟練度は?
測定者の練習を十分に行う必要があります。キューイングや説明の仕方など特に重要

この5つを説明できるだけでも、「測れるものを測る」から、「目的に応じて測定を設計する」へ一歩進むことができます。

次回は、こうして得られた測定値を、「何と比較し、どう変化を捉えるのか」――分析の基本について考えていきます。

監修: Ph.D., CPSS, CSCS, JSPO-AT
西海大地 

🔗前回記事「そのデータ、現場の判断につながっていますか?」
https://www.top.s-cade.com/blog/datatodecision

参考文献

Bourdon, P. C., Cardinale, M., Murray, A., Gastin, P., Kellmann, M., Varley, M. C., Gabbett, T. J., Coutts, A. J., Burgess, D. J., Gregson, W., & Cable, N. T. (2017). Monitoring athlete training loads: Consensus statement. International Journal of Sports Physiology and Performance, 12(Suppl 2), S2-161–S2-170.

Neupert, E. C., Cotterill, S. T., & Jobson, S. A. (2019). Training-monitoring engagement: An evidence-based approach in elite sport. International Journal of Sports Physiology and Performance, 14(1), 99–104.

Weakley, J., Black, G., McLaren, S., Scantlebury, S., Suchomel, T. J., McMahon, E., Watts, D., & Read, D. B. (2024). Testing and profiling athletes: Recommendations for test selection, implementation, and maximizing information. Strength & Conditioning Journal, 46(2), 159–179.