

公開日:
2026.4.14
スポーツのタイム計測って、なんとなく「センサーを置けばOK」だと思っていませんか。実は、そんなに単純ではありません。
S-CADE.では反射板不要タイム計測器「Voltono X」にLiDAR(ライダー)というセンサーを使っています。自動運転車にも搭載されているあの距離センサーです。「ゲートの前を何かが通ったら、距離が縮まる。その瞬間をタイムとして記録する」という仕組みです。シンプルに聞こえますが、これが一筋縄ではいかない。

100mを走るとき、人間の体はどんな順番でゴールを通過するでしょうか。正解は、「腕」です。腕を振りながら走ると、腕はランナーの重心より前に出ます。その腕がゴールのセンサーに引っかかり、「胴体が来る前にタイマーが止まる」という現象が起きます。これをフォルスシグナルと言います。
研究によると、この誤差は最大80ミリ秒にのぼることがあります(Earp & Newton, 2012)。「80ミリ秒って大したことないでしょ」と思うかもしれません。でも、トップアスリートの自己ベスト更新は、しばしば0.01秒=10ミリ秒単位の話です。80ミリ秒の誤差は、計測として致命的です。
LiDARには独自の課題もあります。LiDARは光を飛ばして、跳ね返ってきた光で距離を測ります。ここで問題になるのが反射率です。黒い素材は光を吸収してしまい、センサーが「あれ、何もないかな?」と誤判定することがあります。
本当は胴体が連続して通過しているのに、センサー上では数ミリ秒単位でパチパチと「バラバラの短い出来事」として記録されてしまう。これをフリッカーと呼んでいます。
2つの問題をまとめて整理するとこうなります。

これらを解決するために設計したアルゴリズムが、2段階のフィルターです。
Stage 1:フリッカーをふさぐ
細切れになった信号を「一つのまとまり」に戻します。「センサーが反応しなかった時間が12ミリ秒以内なら、それは誤反応。無視して繋げる」という処理です。
Stage 2:一番長い遮断を選ぶ
Stage 1でまとめた後、「ゲートを通過した出来事」が複数検出されます。腕による短い通過と、胴体による長い通過です。ここで採用するのは、最も長く遮断したイベント。これが胴体です。
なぜこれで解決するか。それは、「胴体は腕より幅が広い」という物理的な事実があるからです。速度が遅くても、腕を前に伸ばしていても、体型がどうであっても、胴体の通過時間は腕より長くなる。この原則は崩れません。

陸上競技のゴール判定を思い出してください。ゴールを「通過した」と認められるのは、胴体がラインを越えた瞬間です。腕でも足でも頭でもなく、胴体。スプリントの計測も同じです。腕の通過タイムを採用してしまうと、腕の振りが大きい選手が「速く」見えてしまい、正しい比較ができなくなります。
Voltonoは、センサー本体にマイコンが組み込まれています。選手がゲートを通過した瞬間、フリッカーの補完も、フォルスシグナルの除去も、「どれが胴体か」の判断も、すべてデバイスの中で完結します。アスリートが通過してからコンマ数秒以内に、正しいタイムが出力されます。
市場に存在するシンプルな無線タイマーは、センサーが反応した信号をそのままスマートフォンやPCに飛ばすだけです。「最初に反応した瞬間=タイム」として記録するため、腕の通過も胴体の通過も区別できません。信号をどう解釈するかを、現場でリアルタイムに判断できる——この差が、計測の精度として現れます。

センサーを置いてタイムを測る。それだけのことに見えて、中では「どの信号が本当に正しいか」を判断するアルゴリズムが動いています。フォルスシグナルを無視すること。フリッカーを補完すること。そして、最長の遮断を胴体と見なすこと。一つひとつは地味な処理ですが、これらがそろって初めて「測った数字を信頼できる」と言えます。
速さを競うアスリートに、正確な数字を届ける。そのための小さなこだわりが、Voltonoシリーズには詰まっています。
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参考:Earp JE, Newton RU. Advances in electronic timing systems: considerations for selecting an appropriate timing system. Journal of Strength and Conditioning Research, 26(5):1245–1248, 2012.