

公開日:
2025.11.16
今回は、10月24日に山口が行ったセミナー「筋肉痛の発生メカニズムを深掘りする」で紹介した水村和江先生の研究についてご紹介したいと思います。
この研究は、私たちが長年信じてきた「筋肉痛の常識」を、最新の科学でアップデートしてくれる非常に示唆に富んだ内容です。
久しぶりの運動や新しいトレーニングの翌日にやってくる、あのズーンとした痛みを遅発性筋痛(DOMS)と呼びます。
「筋線維が切れたから」「乳酸が溜まったから」と説明されることの多いこの痛みですが、もしその常識が、すでに科学的に否定されつつあるとしたらどうでしょうか?
水村先生らの論文が示すのは、筋肉痛のメカニズムが、実はもっと複雑で、神経を巻き込んだ驚くべきプロセスによって生じているという新事実です。
この記事では、セミナー内容も踏まえつつ、最新の科学論文に基づき、読者の皆様の筋肉痛の理解を根本からアップデートする4つの新事実をわかりやすく解説します。
これまで筋肉痛は、「筋線維が傷つき、その修復の際に炎症が起きるから」と説明されてきました。
直感的でわかりやすいモデルですが、実はこれだけでは筋肉痛を説明できません。
ラットを使った研究では、エキセントリック運動(筋肉を伸ばしながら力を出す運動)をさせたところ、顕微鏡レベルで確認できる損傷や炎症がほとんど見られないにもかかわらず、筋肉痛だけはしっかり発生したという結果が報告されています。
さらに、ヒトを対象とした研究でも、「痛みがないアスリートの筋肉にも損傷が見られる」という結果もあり、筋肉の損傷と筋肉痛が必ずしも一致しないことが明らかになっています。

かつては「筋肉痛の原因=乳酸」という考えが広く信じられていました。
しかし現在、この説は科学的にはほぼ否定されています。理由はシンプルです。
コンセントリック運動では乳酸が多く産生されますが、筋肉痛を強く引き起こすのは乳酸の少ないエキセントリック運動です。
乳酸は運動後1時間以内に元の状態に戻ります。
一方で、筋肉痛のピークは24〜72時間後。
乳酸では説明がつかないのです。
では、痛みの正体は何なのか?
その鍵は、筋肉そのものではなく「神経」にありました。
筋肉痛は、じわっとした鈍い痛みと、押したときの鋭い痛みが混ざった複雑な感覚です。
研究によると、この2種類の痛みは、別々の化学物質によって「増幅」されていました。
運動によって生成された発痛物質(ブラジキニン)が引き金となり、NGFが産生。
このNGFが鈍痛を伝えるC線維を過敏にし、あのジワジワ続く痛みを引き起こします。
運動によってCOX-2が活性化 → GDNFが生成。
鋭い痛みを伝えるAδ線維を敏感にし、押した時に「イタッ!」と感じる痛みを強めます。
つまり筋肉痛とは、「傷そのものが痛い」のではなく、「神経が普段より敏感になり、通常なら痛くない刺激まで痛みとして感じてしまう状態」(=機械的痛覚過敏)だったのです。
実は、筋肉痛のときにロキソニンなどの鎮痛薬(NSAIDs)を飲んでも、あまり効果はありません。
論文では、すでに発生した筋肉痛(神経の過敏化)には、NSAIDsがほとんど効かないケースが多いと報告されています。
理由は明確です。
鎮痛剤は炎症を抑える薬ですが、筋肉痛の主因は「炎症」ではなく、「神経の過敏化」。
つまり、消火器(抗炎症薬)で、誤作動して鳴っている警報(過敏化した神経)を止めようとしているようなものです。
想像すると...なんだか滑稽ですね...笑
もちろん例外もあります。
運動前に使った場合は効果がある可能性
塗り薬は効いたという報告
状況によっては軽減するケースもある
ただし、筋肉痛の根本メカニズムを考えると、一般的な鎮痛剤が十分に効かない理由が明確に説明できます。
筋肉痛に関する科学は、ここ数年で大きくアップデートされています。
従来信じられてきた「物理的損傷+炎症モデル」は、現在では十分な説明にならず、
NGFやGDNFといった神経栄養因子が主役の「神経化学的モデル」へと移行しつつあります。
これは、単なる知識のアップデートでは済みません。未来のトレーニング、コンディショニング、ケアの方法そのものが変わる可能性を秘めています。
痛みを「無理に消す」ではなく、神経の過敏化を理解し、それを賢くコントロールする時代へ。
筋肉痛の裏側には、あなたがまだ知らない科学が広がっています。
痛みと向き合う方法を次のステージへ進めるために、ぜひ今回の4つの新事実を役立ててみてください。
